雨の日も、晴れの日も
「洗濯機が動かなくなった!」
というメールが夫から送られてきたのは私がP L U S縁の開店12周年のお祝いの花を準備していた夜だった。
今年で12周年を迎えたP L U S縁では、長年使ってきた洗濯機が寿命を迎えたようだった。美容室で洗濯機が壊れてしまうとお店で使うタオルが無くなってしまうので、そのS O Sは夫のため息と共に私にも重く響いた。
営業終了後にあれこれ試してみたものの何をしても治らないので仕方なく買い換えることにした。
洗濯物の量は今では1日に3−4回は洗濯機を回すほど、沢山のお客様がご来店くださっている。洗濯機の唸る音を聞きながら私はその事を深く幸せに味わっていた。
ところが翌日再びS O Sの電話が鳴った。
お店の玄関にはすでにお祝いの花が飾られていた。
「今度は水栓の蛇口が壊れて水が出なくなった!」
洗濯機に続き水栓も壊れて夫はすっかり疲れた様子だったので、私は今見ているドラマの占い師のコミカルなセリフを真似して
「あなた、大殺界ですね」
と笑った。
私たちがお店をO P E Nしてからもう12年が経つ。あちこちに故障が出てきて修理をするのも仕方のないことだと私はその年月に思いを巡らした。
この12年で私たちのお店はあちこちの媒体で取材を受けてきたが、そこではいつも
「石田家=サロン」
「石田家と言う空間」
というキーワードで取り上げられてきた。
店舗と家族の住居が一体なお店。下校時刻には子供たちが美容室の玄関から「ただいまー」と帰宅する美容室。
末っ子が小さな頃は私の背中におぶられながら営業に加わっていた。
まさに家族みんなで今のお店を作ってきたのだ。お客さまはいつも私たち家族を見守ってくれて子どもたちの成長を共に喜んだり、時に悩みを共にしてくれた。
そして2年前。
この私も、壊れてしまった。
そしてお店に立つことができなくなった。ヘアメイクに走り回っていた仕事が私のキャパをオーバーしてしまったみたいだった。
私が壊れてしまってから、「石田家=サロン」ではなくなってしまった気がして怖かった。お店をどうしたら良いのかとても悩んで、私たちは初めてスタッフを雇うことになった。それはとても勇気のいることで、手探りで見えない道を切り開いて進むようだった。
後輩の美容師や派遣美容師さんが来てくれて店は賑やかになった。
そしてすでに体験した方も多いであろうヘッドスパニストの澤井さんが加わった。
古民家が好きでヘッドスパの大好きな、我が家の長女とほど近い年齢の彼女。
気がつけば今の「石田家」には信頼の技術を持つカメラマンに着付師、そしてヘッドスパニストが加わっていつの間にか賑やかな大家族になっていた。
もうダメになったかもしれないと思っていた植物が、新しいところからふと芽吹いてくることがあるように、きっと今のP L U S縁には 小さくて新鮮な次の芽が芽吹いている。そう思いたい。
これまでに出会ってきた2000人近くの人たち。
これから出会うまだ未知数の人たち。
晴れの日も雨の日も。
笑ったり泣いたりする時も。
また一緒に歩んでいける、そんな美容室であり続けたいと改めて願った1日だった。